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東京家庭裁判所 平成7年(少)3883号 決定

少年 D・T(昭54.4.29生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

第1  A、B、Cと共謀のうえ、平成7年7月17日午後5時20分ころ、東京都大田区○○町×丁目××番○○寺境内において、少年らが呼び出したD(当時15歳)、E(当時16歳)、F(当時15歳)、G(当時15歳)、H(当時15歳)らに対し、「○○中の悪口を言っているのは誰だ、○○中に喧嘩を売るのは、○○隊に喧嘩を売ることだ。タイマンか金を15万円払うかどうする」等と因縁をつけ、少年及びCはヘルメット等で、Aは所携の杖で、Bは手拳等で、こもごも右Dらの頭部、顔面、腹部等を殴打する等し、もって数人共同して暴行を加えた

第2  A、C、I、J、Kらと、少年の彼女と仲良くしているというLに暴行を加えることを共謀し、同年5月17日午後4時ころ、同区○△町×丁目××番区立○○公園内にL(当時16歳)を連れ込み、同所において、右Lに対し、Iが顔面を足蹴りし、更に顔面を手拳で多数回殴打し、J及び少年も腹部、顔面等を殴打、足蹴りする等し、もって数人共同して暴行を加えた

第3  A、M他数名と、右Aが以前大田区立○△中学校の卒業生らから暴行を受けた仕返しをすることを共謀し、同年8月1日午後8時ころから同日午後11時ころまでの間、少年他2名が同区△△町×丁目××番××号○○駐車場に連れ込んだN(当時15歳)に対し、Mが顔面を手拳で殴打、足蹴りし、更に、少年、A、Mが所携の木の棒、鉄パイプ等で右Nの左腕、背部、顔面等を殴打する等の暴行を加え、よって、右Nに対し、左腕肘、右手関節、手、背部挫傷により加療約2週間を要する傷害を負わせた

第4  平成7年6月14日午後2時ころ、少年を○×地区の不良で暴行等を加える男として恐れている後輩のO(当時13歳)及びP(当時13歳)に対し、電話で、「金が要る。すぐに1万5000円作ってきてくれ。」等と申し向けて金員を要求し、もし右要求に応じなければ自己の身体に危害を加えかねない気勢を示して脅迫し、その旨右Oらを畏怖させ、よって、同日午後5時30分ころ、同区△○町×丁目××番××号カラオケルーム「○○」店内において、右Oから現金9000円の交付を受けてこれを喝取した

ものである。

(法令の適用)

第1及び第2の事実

暴力行為等処罰ニ関スル法律1条(刑法208条)

第3の事実

刑法60条、204条

第4の事実

刑法249条1項

(処遇の理由)

少年は、高校進学直後から学業に適応することができなくなり、地域での不良交遊を深め、不良集団化し、その集団の力を後ろ楯にして、無抵抗の者らに対して暴行を加え、恐喝するという粗暴非行を繰り返してきたものであり、本件各非行は少年の一連の非行の一部である。

少年は、中学生時代は夜遊びを原因とする遅刻、欠席が多く見られ、姉の影響を受けて渋谷のチ一ムとの関わりも見られるようになったが、高校進学に意欲を示し、教師の指導も得て、なんとか高校進学を果たした。もっとも、少年は当初は普通科を希望していたのであるが、成績も考慮し工業高校に進学した。ところが、少年は「全色弱」であったため、実習でのコードの色の識別ができず、授業に支障をきたしたため、自棄的な気持ちを強めるようになり、その結果怠学するようになった。また、少年は幼少時から体が弱く、更に「閃輝暗点」という、発作を起こすと一時的に目が見えなくなり、数日間頭痛が続くという治療困難な疾病があったため、自己の将来に対する不安を抱きがちであった。このような、精神的に不安定な状況において、少年は、自己と同じように中学卒業後の生活に挫折した少年らと不良集団化し、気ままでやりたい放題の生活を続け、急速に非行化を深めていったものである。

本件第1ないし第3の各非行事実は、いずれも、無抵抗の者らに対し、集団で、一方的に暴力を振るったものであり、極めて悪質である。また、第4の非行事実は、少年を恐れる後輩たちの心理的な弱みに付け込み、金員を喝取したものであるが、その後輩たちは、その金策のために老女に対する「かっぱらい」に及んだのである。しかも、立件されてはいないものの、少年は本件恐喝の後も、後輩らがひったくりをやって金を作ってくることを承知の上で、同人らに金策を命じているのであり、少年の規範意識の乏しさは重大である。

少年の実母は、夫と離婚後、ひとりで子どもたちを養育してきたのであるが、物心ともに余裕はなく、姉及び少年の相次ぐ非行化に対しても十分な対応をとることができなかった。少年が本件で観護措置をとられた後、ようやく少年の環境を整えるべく、少年の姉を担当している保護司に相談するようになったのであるが、少年の問題性に照らせば、その監護力は弱いといわざるを得ない。少年の問題点の改善、すなわち不良交遊関係への依存を改め、中学卒業後の勝手気儘な生活態度を改め、正しい規範意識を持たせるためには、もはや在宅での処遇は困難であり、矯正施設での矯正教育が適当である。

もっとも、少年は知的機敏性や理解力は普通程度に認められること、また、小学生当時には筋ジストロフィの同級生に優しく接し通学時に面倒を良くみる等、根は優しく、友達思いの面もみられること、少年は本件で初めて観護措置をとられ、審判を受けるのは初めてであること、当初は内省に到らなかったものの、鑑別所において、ようやく本件非行の重大性、自己の問題点について思いが至るようになり、反省も見られるようになったこと、色弱でも問題のない普通科の高校に再受験したいとの積極的な希望も有していること等に鑑みれば、少年に対する矯正教育は、本来であれば、比較的短期間における集中的な指導が適当ではないかと考える。しかしながら、少年には「閃輝暗点」という疾病があるために医療環境下での処遇が不可欠であると認められるため、少年に対しては、医療少年院に送致することが相当である。

以上の次第であり、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 岩井隆義)

〔参考〕 処遇勧告書〈省略〉

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